にこやかに言いながら頭の中は不安一色。味付けにぬかりはないか思い返してみるが、そもそも醤油をソースと間違いそうになったのだ。どこかでなにかを取り違えているかもしれない。
隼が佳乃をテーブルに案内し、優莉は急いでキッチンに戻った。
今夜のメニューは中華丼と溶き卵を入れたきくらげの中華スープ。小皿にとってたしかめた味に問題はなさそうだが、料理研究家に出すものとしては今ひとつの気がしてならない。
恐る恐る器に盛り、三人分をテーブルに並べる。佳乃と向かい合って座る隼の隣に腰を下ろした。
「おいしそうね。いただきます」
優莉は、レンゲを持った佳乃が口に運ぶのをじっと見つめた。なんと言われるのか気が気でない。
中華丼をすくい、ゆっくりと口に入れた佳乃の動きが止まる。
どうだろう。やっぱり口に合わないのかな。
優莉が心細さでいっぱいになったときだった。
「おいしい」
佳乃からため息交じりの声が漏れる。それは思わず言葉として出てきた本音のような感じだった。これがお世辞だったら佳乃は女優顔負けの演技力だ。



