マンションの管理会社から情報を得ていたとは思いもしない。
「そうだったよね。母さんの知り合いだったっけ」
「いやだわ、隼ったら。忘れていたの? 他人から息子が婚約したって聞かされるなんて思いもしなかったわ」
「本当にごめん」
「もうあなたもいい大人だからとやかく言うつもりはないけど」
言葉こそ責めてはいるものの口調は穏やかで、決して怒っている様子ではなかった。
その知人から聞き、早速ここへ来たと言う。
「本当はもっとちゃんとしたものを作りたかったんだけど」
そう言いながら佳乃は白い箱を優莉に差し出した。
戸惑いながら「ありがとうございます」と受け取り、隣の隼を見上げる。
「なにを作ってきてくれたの?」
「フォンダンショコラよ。時間があったらケーキを焼いて持ってきたかったんだけど」
スイーツだと聞き、優莉の顔がパッと華やぐ。フォンダンショコラも大好きだ。



