「いずれ紹介しようと思っていたんだ」
隼まで妙なことを言いだす。
婚約者というのはここに住むためだけの設定ではなかったのか。それも優莉が資金に目途がつくまでの期間限定だ。
「優莉、おいで」
戸惑って目を白黒させている優莉を隼が手招きで呼び寄せる。
「こちらが花崎優莉さん」
隼から紹介され、慌ててエプロンを外してカチンコチンになりながら「花崎優莉です」と深く頭を下げる。隼に肩を引き寄せられ、左半身が彼にぴったりと密着した。
なぜかはわからないが、母親にまで婚約者を演じなくてはならないようだ。
「隼の母の佳乃です。ここの管理会社は知人がやっているの。そこから『息子さんのご婚約おめでとうございます』なんて言われたからびっくり」
佳乃は優莉に優しく微笑んでから、隼を見て眉を上げ下げする。



