「俺も花崎さんが一緒で心強いよ。よし、じゃあ行くか」
「うん」


軽くなった気持ちでうなずき、門倉と肩を並べてビルのエントランスに入る。本社はこの三十階から三十五階にある。

昨日、寺岡に受付から人事部に内線をかけるように言われたため、三十階の受付ブースに三台ある電話のうちの一台で門倉が代表して電話をかけた。

ふたりで緊張して待つこと数分。迎えにきた人事部長の大久保と挨拶を交わし、三十二階にあるレストラン事業部に揃って連れていかれた。
レストラン事業部の部長ある兼平(かねひら)は四十代後半のダンディな男で、店舗巡回に来た際に優莉も何度か挨拶を交わしている。

事業部のフロアは間仕切りのある大きなテーブルが三つほど並び、座席は決められていないという。荷物を置けるキャビネットは割り振られているが、各自がノートパソコンを持って自由に席を選び、そこで仕事をするスタイルらしい。筆記具などの備品はすべて共通で使用するそうだ。
合理的な仕事風景にやる気を刺激される。


「はい、みんな、注目して」


始業時間とともに兼平が事業部内のみんなの注意を引く。