アパートの前に停まっている白い高級車に気づき、優莉の背筋がピンと伸びる。事務局の人が『社長はご自身のお車で花崎さんのご自宅に迎えに行くそうです』と言っていたから、あれがそうだろう。

午前十一時の約束ぴったり。二階建ての木造アパートに似つかわしくないピカピカの車から、社長の隼が降り立った。

その瞬間、そこだけパッと華やかな空気になる。なんの変哲もない普通の住宅街が、ワンランクもツーランクも上の高級な街並みに見えた。

ざっくりしたゲージの白いニットにベージュのチノパンを履いたカジュアルなスタイルの隼を見るのは、当然ながら初めて。スーツとのギャップのせいか、彼に対して特別な感情がなくてもその容姿に見惚れてしまう。

思わず立ち止まりまばたきも忘れて優莉が見入っていると、隼の方から口を開いた。


「おはよう」
「お、おお、おはようございます。花崎優莉です」


つかえながらの残念な挨拶には自分でも苦笑いしかない。優莉が足を踏みだすと、後部座席のドアが突然開いた。
そこに誰かが乗っているとは思いもしなかったため、つい「ひゃっ」なんてかわいげのない声が出る。