なんとか切り抜けると、明日美の方からべつの話題に移った。
「そうだ。昨日、大変だったんだよ。料理に髪の毛が入ってるって、お客様が店内で騒ぎはじめちゃって」
「えっ? 髪の毛?」
優莉が自由が丘店に配属されてから、今までにそういったクレームがあったのは一度きり。細心の注意を払っているから最小に抑えられている方だと優莉は勝手に思っている。
「そうなの。すごく長い髪の毛でね」
「……厨房の中に長い髪の毛の人はいないよね」
顔を思い浮かべるが、短髪の男性だけだ。ほかの店には女性シェフもいるが、自由が丘店は男性しかいない。
「だよね。それが奇妙でね」
「ほんとに変だね」
そんな話をしながら店に到着。ちょうど店にいたマネジャーの寺岡に昨日の休みを謝罪し、優莉と明日美はすぐにオープン準備に取り掛かった。



