仮面花嫁~極上社長は偽り妻を乱したい~


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その夜、優莉は再び隼と一緒のベッドに入った。
短い期間とはいえこれからここに置いてもらうのだとしたら、寝室はべつの方がいいだろう。そう思ったが、『ベッドも布団も余分なものを用意するつもりはない』と隼に言われたため、居候の優莉に選択権はない。気が進まなくても従う以外にないのだ。

どちらにせよ、隼にとって優莉は女として見る対象ではないから余計な心配をする必要はないのだけれど。

「おやすみ」と言い合って、二代目のチンアナゴを抱いて隼に背を向ける。
二夜目でも緊張が和らぐ気配はなく、どちらかというと昨夜よりも優莉の胸はドクドクと元気よく行進でもしているかのよう。たぶんそれは、サンドとぬいぐるみのサプライズという隼の優しさを見せられたせいだろう。

おまけに偽りとはいえ、隼の婚約者になったから尚更だ。
表向きだけ。ここに住むために必要な肩書き。そうわかっているのに、なぜか心が騒ぐ。

やわらかなチンアナゴを両足で挟み、一向に訪れない眠気を必死に手繰り寄せる。
そんな優莉とは対照的に、隼からは早速寝息が聞こえてきた。

――本当に、全然なんともないんだ。

隣に寝ていてもまったく気にならないほど、優莉には女の要素がないらしい。
それが癪であり、ちょっと寂しくもある複雑な心境だった。