「わかりました。精いっぱい務めさせていただきます」
うまく演じられるかはべつとして、与えられた役目はやり遂げたい。優莉が拳を握って力こぶを作ると、隼は「気合十分だな」と笑った。
「じゃ、ここに名前と生年月日を書いて」
隼が申請用紙を優莉の方に滑らせる。
「それからなにかと不便だから連絡先を交換しておこう」
お互いにスマートフォンを取り出して電話番号とメッセージアプリのIDを登録し合い、隼から差し出された万年筆で書類に必要事項を記入していく。
「バレンタインデーが誕生日なのか」
「そうなんです。だから影が薄くて。友達にもいつも忘れられてばかり」
友達は本命チョコで頭がいっぱいのため、学生時代のちょっと寂しい思い出だ。
「社長の誕生日はいつですか?」
「俺? 俺は……三月三日」
「えぇ!? ひな祭り!?」



