「……私なら気にしないでください。なんとかなります。ひと晩だけでも泊めていただけて本当に助かりました」
隼に心配をかけたくないため、なるべく明るく言う。笑ってみせたが、唇の端はどうしても引きつった。
出るなら、なるべく早い時間がいい。急いでコーヒーを飲み干して立ち上がる。
「なにを言うんだ。出ていくつもりか?」
「ですが、家族じゃないと住めないって」
「だったら家族になればいいじゃないか」
「……はい?」
家族ってなに……?
数秒間、沈黙が舞い降りる。
「やだ、社長、こんなときにジョークはやめてください」
最後の最後まで優莉をからかう気なのか。
しかし隼はきっぱりと否定する。
「俺は冗談を言ったつもりはない」
「……だって家族って」
いきなりそんな嘘が通用する?



