そんなものが出てくるとは思いもしない。優莉はパタパタと忙しなくスリッパの音を立ててダイニングへ行った。


「かなり気に入った様子だったからね」
「……わざわざ買ってきてくださったんですか?」


入園料を払ってまで。そもそもクールブロンの本社からは決して近いとは言えない。


「それからこれも」


隼は、今度はリビングへ行くと、ソファから大きな物を持ち上げた。

――嘘。

それをポーンと優莉に向かって投げる。
高い天井に弧を描いて飛んできたそれを優莉は手を伸ばしてキャッチした。


「昨夜、それがなくて泣きそうになってただろ」


チンアナゴの抱き枕のぬいぐるみだったのだ。
鼓動がトクンと弾む。思いがけないサプライズにリアクションもとれない。
隼は、火事ですべてを失った優莉を元気づけようと、わざわざ喜ぶものを用意してくれたのだろう。優莉をからかうばかりの隼は、じつはとても優しいのではないか。