おいしいものは世界を救う。
幼い頃、優莉(ゆうり)の父親がよく言っていた言葉である。

お腹が満たされればイラつかず、争いも起こらない。それがおいしいものなら、一緒にいるのがたとえ敵だとしても至福の時をともに過ごせると。

世界を救うかはべつとして、今この場でそんな言葉を思い出しながら確実に幸せな気持ちになっている人間がひとりいる。

花崎(はなさき)優莉、二十二歳。
彼女は盛り上がるパーティー会場の片隅でひとり、のせられるだけの料理を皿に盛りフォークでひとつずつ口に運んでいた。煌びやかな装飾やホールの華やかな雰囲気などどこ吹く風。

――ん、これもおいしい!

小鹿のように優しげな目を真ん丸にしてから細める。やわらかそうな唇からは、うっとりするようなため息が漏れた。

レフォールソースと相性抜群のローストビーフが口の中でとろけ、跡形もなく消えていく。
これ、お母さんや真由香(まゆか)に食べさせたら喜ぶだろうなぁ。
そう思うと、自然と顔がほころんだ。

次なるターゲットは砂肝のコンフィ。優莉は頬にかかった栗色の長い髪を耳にかけてからフォークを刺した。