お財布とスマホを入れた巾着の紐をぎゅっと絞ると、玄関に綺麗に揃えた下駄に片方ずつ足を通す。

玄関に座っていつまでもぎゅーっと下駄の鼻緒に足先を押し付けていると、お母さんが不審げにリビングから顔を覗かせてきた。


「友ちゃん、時間間に合うの?」

「うん、もう出る」

お母さんの声に背中を押されるようにして、ようやく立ち上がる。

下駄箱の横の大きな姿見の前で無意味に前髪を整えると、深呼吸してから玄関のドアを開けた。


「行ってきます!」

「気を付けてね」

私を送り出すお母さんの声が、ひさしぶりに弾んでいたような気がする。


新しい高校に編入してから学校のことをほとんど話さなかった私が突然、

『友達と花火大会に行くから浴衣を着せてほしい』

なんて言い出したから、嬉しかったんだろう。

最初とても驚いた顔をして、それから満面の笑みを浮かべてタンスの奥から浴衣を引っ張り出してきたお母さんは珍しく生き生きとしていた。