卒業式が終わったらせめて、「さよなら」だけでもちゃんと言いたい。

そう思って最後に話しかけるチャンスを狙っていたら、友達と写真を撮っていた星野くんが一瞬ひとりになった。

急いで歩み寄っていく途中で、星野くんと確かに目が合って。思いきって手を振って声をかけようとしたら、冷たい目で睨まれてぱっと顔を逸らされた。

そのことにびっくりした私は、そのまま星野くんには近づけないままに小学校を後にした。

それが、私の小学校の卒業式の日の星野くんに関する記憶。

卒業式前日に、星野くんに関わった記憶はない。


今思えば、記憶の中にある卒業式のときの星野くんの冷たい眼差しは、この学校に編入して彼と再会したときのそれと全く同じだ。


卒業式の前日に、私は星野くんに何をした────……?


必死に思い出そうと頑張ってみたけれど、そもそもない記憶を思い出せるわけがない。


「覚えてないか。そんなどーでもいいこと」

無言で青ざめる私の手首を解き、星野くんが苦い顔で笑った。


「ごめん。私、星野くんに……」
「戻ろう。ジュース温くなる」

私の言葉を遮って、星野くんが立ち上がる。

みんなの分のジュースを持って先に歩き出した星野くんに、私は何の言い訳もさせてもらえなかった。