「...。」

昨日はいない人とすれ違った。

この人もお医者さんのようだ。

水晶みたいな...。

光をよくとおして、奥までみえそうな、
むしろ何でも透かしてしまって、みえなさそうな、この、瞳...。

それが、短い間、私を捉えていた。

ゆっくり、それが流れていく。

「あの...。」

気づいたら声をかけていた。

自分でも驚くぐらいか細い声で。

それでも、その人は振り返ってくれた。

背が高くて、すらっとしてて、でも、顔はちょっと童顔の人。

どこか顔つきが中性的な印象もある。

しばらく自分から話しかけたんだと言うことも忘れて、魅入ってしまっていた。

それでも、その人はずっと待ってくれている。

やがて、その人後ろから、看護師さんが、

「先生はやく来てください。」

というふうに声をかけた。

「ごめん、今行くから、少し待ってて。」

きいたことあるような...。

そういえば...。

意識は朦朧としてたけど、この人の声だけ、はっきりきこえてた。

他の人にどうするか指示したり、わたしに声をかけて励ましてくれたりしていた。

「あの、助けてくれて、ありがとうございました。」

ぴーんと耳がはっているみたいに緊張した。

「真壁さん、だったっけ。」

「...はい。」

「...がんばってね。」

その人は軽く手を振って看護師さんの元へいってしまった。


がんばってね
って言ってたとき、なんだか不思議だなぁと思った。

そんなこと言ってくれる人、誰もいなかったな。

言っちゃダメってことになってるんだっけ。

でも、なんだか、
その無責任な言葉が。

今の私にとって欠けていた重要なものだったのかもしれない。