キミのこと痛いほどよく分かる

それから数年後、

私は、施設を出て、働くことになり、

そこで何人か友達ができ、知り合った男性と結婚した。

そして、私たちの間には、子どもが生まれ、
今日、病院から退院することになったのだった。

「そういえば、この病院での噂、知ってる?」

子どもに触れ合いながら、その人はそう私に語りかけた。

「この病院では、助からない見込みの患者さんが奇跡的に回復したことがあるんだって。その患者さんは、回復する直前に男の子の姿を見たっていうんだ。」

「夢を見ていたのね。」

「それが、男の子に手を引かれて、ここまで戻ってきたって話だよ。
男の子の霊が、その患者さんをあの世から引き戻したんじゃないかな。」

「まさか、ありえないでしょ。
幽霊なんているわけないわよ。」

「そうかな。
いるかもしれないよ。
ほら、君の後ろに...。」

「もー、やめてよ。」

その人はいたずらっぽく笑う。

全くこうやって冗談いうの、ずっと変わらないんだから。

そういえば、男の子って...。

「...どこいったんだろう。」

「何が?」

「あなたと出会う前、男の子の写真を拾ったことがあったの。
名前も知らないし、会ったこともない男の子だけど、なんだか懐かしい気がしたからずっと持ってたの。
でも、知らない間になくしちゃったみたい。」

「君が僕と出会う前にそんな写真大事に持ってたなんて、なんか嫉妬しちゃうな。」

「もう、そういうんじゃないわよ...。
?」

それまで寝ていた赤ちゃんが、突然キャッキャと笑い出した。

「どうしたの...?」

「なんだか、向こうの壁の方に向きたいみたいだね。
...男の子かな?」

「ちょっと、やめてよ。
こわい。」

もちろん、そちらを向いても、私には何も見えないのだが、赤ちゃんは、そちらの方に懸命に身体を捻ろうとしている。

「だめよ。
まだ首もすわってないんだから。」

「近づいてあげたら?」

「えー...。」

私は渋々ながらも、赤ちゃんを抱いて、

「ほら、ここに何かあるの?」

と、そっと壁のほうへ近づけて見せた。

すると、

「うわっ!」

危うく赤ちゃんを落としそうになる。

すんでのところで大事に抱えたので大事には至らなかったが。

「な、なに?
どうした?」

「今、何か赤ちゃんに触って...。」

「え...?」

私たちの反応とは対照的に、赤ちゃんはキャッキャと笑っている。

「...やっぱり男の子なんじゃない?
赤ちゃんを触ったんだよ。」

「そんな、わ、悪い子だったらどうするのよ...。」

「大丈夫だよ、きっと。
この子も嬉しそうだし。」

「ほんとに...?」

そう焦っているところで、退院の手続きを終えた看護師さんが、病室に入ってきた。

「あの...。」

「あ、すみません。
この子ったら、壁の模様でも気になってるのかしら。」

「...いえ、きっと、喜んでいるんだと思います。」

「え?」

「他の子も、よくそこで誰かと...。」

「え、本当ですか?」

「なんて、気のせいですよね。
そのちょうど隣にもよく子どもさんがいらっしゃるので、壁を伝って声が聞こえるんじゃないかと思います。」

「そうですか。」

気のせいだろうけど、もし、本当に男の子がいるのなら...。

これからも、この病院を見守ってほしいな、
なんて思う。

私も、この子を頑張って心優しい子に育てよう。

この新しい生活に、向き合ってみよう。