「君は、間違っていない。
...俺が間違えているだけだからね。」
眠っている少女に向かって、そんな皮肉を。彼は呟いた。
彼女にとって、記憶は痛みだった。
今は、どうだろうか。
忘却することが、痛みからの解放なら。
最後に、君のために。
この力を使おう。
「最期に、こんなわがままを...。
許してね。」
お別れを、言いたかった。
それだけのために...。
そっと外へ出ると、そこに。
「そんなの許さないわ。」
「...姉さん。」
月が姉より高いところにあるなんて。
不思議な感じだ。
「彼女を残して、あなた、死ぬつもり?」
彼はただ、笑みをたたえるだけだ。
「そんなに自信があるの。
ずっと変わらないのね。」
姉が、苦笑した。
そして、弟に近づいてくる。
「あなたはいつでもずっと残酷だった。
いつでも痛いのが好きなのね。」
「...生きてるって感じがするからね。」
「その大好きな時間も、もう終わりよ。」
月夜に照らされ、耳鳴りがするほどに、
ギラリとひかるもの。
「これを使って、教えてあげるわ。
あなたの力は、決して救済道具じゃない。
あなたの力によって、より多くのもがき苦しむ人たちがいるってことをね。」
彼女の目も、殺意の光に満ちていた。
「1度目は感謝してるわ。あのときはまだ死にたくなかったし、何よりも、あの人に出逢えたから。
でも、...。」
「...。」
「あの人と一生。
いえ、
永遠に添い遂げるつもりだった...。
どうして私だけ助けたの。」
「1年前の事故で、あの人は即死だった。
でも、姉さんだけは生きていたから。」
「...そのまま死なせてくれればよかったのに。あの人がいなければ私は生きていたって仕方がないのよ?
あなただって分かってたでしょう?」
「それは、伝わってきたけれど...。」
「あなたに分かるわけない。
あなたに分かるのは、表面的な痛覚だけよ。
だから、あの人の元に行こうとしていた私の邪魔をしたの。」
「...辛い思いをさせて、ごめんなさい。」
「いいのよ。
これで全部終わりだから。
あなたは誰も救えないの。
ここにいる大切な誰かさんも、あなたを失って泣くことになるのね。」
グリグリと胸に包丁を突き立て、胸に少しずつ、赤いものが滲んでいく。
このココロには、あの子がいる...。
「あなたもそれでいいでしょう?
これを深く深く、差し込んであげれば、
苦しまずに全て、おしまいよ。」
「姉さん。」
震える彼女の手を掴み、彼は憂いを込めた声でそう呼びかけた。
「なによ。今さら怖気付いたわけ...
...?」
キイン。
力なく落ちた、凶器の音。
途端に、彼女の目からは、生気が失われていった。
それまで身体の全てを支えていたものが一気に抜け落ち、力尽きる。
彼女を今まで生かしていたのは、愛した人を失い、孤独となった苦しみの記憶そのものだったのだ。
そう。
全部、そう。
今まで、救ってきたものは全部。
がら空きになった伽藍の洞に
新たな苦しみを満たしていただけ。
本当に彼女の全てを無にして。
せめて、今度こそ。
「幸せに...。」
誰かを愛し、愛される日々がつづきますように。
...俺が間違えているだけだからね。」
眠っている少女に向かって、そんな皮肉を。彼は呟いた。
彼女にとって、記憶は痛みだった。
今は、どうだろうか。
忘却することが、痛みからの解放なら。
最後に、君のために。
この力を使おう。
「最期に、こんなわがままを...。
許してね。」
お別れを、言いたかった。
それだけのために...。
そっと外へ出ると、そこに。
「そんなの許さないわ。」
「...姉さん。」
月が姉より高いところにあるなんて。
不思議な感じだ。
「彼女を残して、あなた、死ぬつもり?」
彼はただ、笑みをたたえるだけだ。
「そんなに自信があるの。
ずっと変わらないのね。」
姉が、苦笑した。
そして、弟に近づいてくる。
「あなたはいつでもずっと残酷だった。
いつでも痛いのが好きなのね。」
「...生きてるって感じがするからね。」
「その大好きな時間も、もう終わりよ。」
月夜に照らされ、耳鳴りがするほどに、
ギラリとひかるもの。
「これを使って、教えてあげるわ。
あなたの力は、決して救済道具じゃない。
あなたの力によって、より多くのもがき苦しむ人たちがいるってことをね。」
彼女の目も、殺意の光に満ちていた。
「1度目は感謝してるわ。あのときはまだ死にたくなかったし、何よりも、あの人に出逢えたから。
でも、...。」
「...。」
「あの人と一生。
いえ、
永遠に添い遂げるつもりだった...。
どうして私だけ助けたの。」
「1年前の事故で、あの人は即死だった。
でも、姉さんだけは生きていたから。」
「...そのまま死なせてくれればよかったのに。あの人がいなければ私は生きていたって仕方がないのよ?
あなただって分かってたでしょう?」
「それは、伝わってきたけれど...。」
「あなたに分かるわけない。
あなたに分かるのは、表面的な痛覚だけよ。
だから、あの人の元に行こうとしていた私の邪魔をしたの。」
「...辛い思いをさせて、ごめんなさい。」
「いいのよ。
これで全部終わりだから。
あなたは誰も救えないの。
ここにいる大切な誰かさんも、あなたを失って泣くことになるのね。」
グリグリと胸に包丁を突き立て、胸に少しずつ、赤いものが滲んでいく。
このココロには、あの子がいる...。
「あなたもそれでいいでしょう?
これを深く深く、差し込んであげれば、
苦しまずに全て、おしまいよ。」
「姉さん。」
震える彼女の手を掴み、彼は憂いを込めた声でそう呼びかけた。
「なによ。今さら怖気付いたわけ...
...?」
キイン。
力なく落ちた、凶器の音。
途端に、彼女の目からは、生気が失われていった。
それまで身体の全てを支えていたものが一気に抜け落ち、力尽きる。
彼女を今まで生かしていたのは、愛した人を失い、孤独となった苦しみの記憶そのものだったのだ。
そう。
全部、そう。
今まで、救ってきたものは全部。
がら空きになった伽藍の洞に
新たな苦しみを満たしていただけ。
本当に彼女の全てを無にして。
せめて、今度こそ。
「幸せに...。」
誰かを愛し、愛される日々がつづきますように。

