「おはよー、沙羅ちゃん。
また入院しちゃったんだってねー。」

「みてぇ?
沙羅ちゃんのためにまた愛のメッセージ書いてあげたの。」

「...そう、ありがとう。」

「...なにー?
開き直ってるのー?ウケるー。」

「そうだ。喉渇いたでしょ?
これあげる。」

生徒たちは、一斉に頭に水筒の水をかけはじめた。

「キャハハ!無様!」

「やばー。
先生きたよ?
座ろ。」

その直後、担任が入ってきた。

若くて優しくて熱血で女子に好かれている彼は、落ちこぼれを見て見ぬふりをする。

偽善者。

「真壁、そんなに濡れてどうしたんだ。」

「せんせー。真壁さん、暑いから水浴びしてきたんだってー。」

「また机にも落書きしてるんだよー。
自分がやったのに私たちのせいにしてくるの。」

「私たちは沙羅ちゃんとオトモダチになりたいだけなのにぃ。」

「はいはい、分かったから皆席につけ。
ホームルーム始めるぞ。」

いつものクラスの軽いノリ。

暇つぶし、優越感に浸りたいがために私を取り巻く寂しい人たち。

「どうした真壁、はやく席に着きなさい。」

「...先生、私やっぱり帰ります。」

「何を言ってるんだ。そんなことが許されるわけないだろう。」

「そこの女子たちに頭から水をかけられたので、また症状が悪化したようです。
...ごほっごほ。」

「何言ってるの?私たち何にもしてないじゃん。
いつもお得意の自作自演でしょー?」

「飯田もこう言っているだろう。お前の考えていることなど先生は分かっているんだ。
クラスの皆に迷惑をかけるのはやめなさい。」

「ええ、居るだけで迷惑でしょうね。
だから帰りたいって言ってるんです。」

「真壁...また逃げるのか。お前は卑怯者だぞ。」

「ええ。もう、黙ってるのをいいことに利用されるのはごめんなんです。
私は学校の中で1人も友達なんていない。
いるのは、私をいじめることで優越感を得ている悲しい人たちと、それを黙認しているクラスメイト。
先生、貴方だってそうです。」

「真壁...被害妄想もいい加減にしなさい。」

「先生。
大人だからってもう貴方のこと微塵も怖くありませんよ。
だって、ただの他人ですから。」

「真壁、また保護者を呼んで面談するぞ。」

「構いません。
確かに両親は怖いけど、
私にだって自由があります。

あなたたちのしたこと、全部話します。
話して、認めてもらえなくても、証拠ならいくらでもあるし、事実を知ってもらう方法だって沢山ある。」

「真壁、あんた、
私たちを脅迫するつもり?」

「これは脅迫ではなく、正当な訴えです。
弱者は弱者なりに、対等な自由を取り戻すため、必要な権利を行使するまでです。」

「一体何するつもり。」

「...いじめてるところも、用意周到にその準備してるところも、先生との会話も、全部録画してあるの。
それに...私に友達はいなくても、協力者はいる。」

「...どういうことよ。」

「いじめ自体が仲間意識で成り立ってるなら、[裏切り者]ってところかな。

あなたたちにはもう屈しない。
今まで私にしたことが、どれほどのことか分からせてあげますね。」

そうやってわざとらしく捨て台詞を吐いて、教室を後にした。

小心者のわたしが、果たしてそこまでできるだろうか。

でも、後戻りはできない。

言ったからには、やるしかない。