家に帰ってきた。

本当は、怖い。

家には母親がいた。

疲れ切っている様子だ。

「沙羅、ここに座りなさい。」

「...はい。」

私は言う通りに、机に座った。

家の机にちゃんと座ったのなんて、久しぶりだ。

「...何を言いたいか分かってるでしょ。」

「...なに?」

「とぼけないでちょうだい。
あなたのせいで私はこの2日間どんな仕打ちを受けたと思う?」

「...。」

「言ったわよね。もう限界だって。
あなたはどこまで私をおとしめたら気が済むの。」

もはや、正気ではないのだろう。

「まさか、病院に話したんじゃないでしょうね。」

「何を?」

「何をって...。
分かってるでしょ。」

「分からない。
母さんは何を恐れているの?」

「...沙羅...あんた...。」

母親は、鋭い目つきで私を睨みつけた。

「話したわね。
このウチのこと...。」

「どういうこと?
きちんと話してくれないと分からないよ。」

「わたしのせいなの...?
そんなに私を悪者にしたいの。」

「...。」

「ふざけないで。
誰が産んで今まで育てたと思ってるのよ。」

「...。」

「全部、あんたのせいよ。
あの人だって、あんたが生まれてからおかしくなったのよ。」

「...。」

「あんたが生まれてから保険、学費や食費、生活費が倍に増えた。わたしだって子育てや家事に追われて...。少しでもやらなきゃ他人の目に晒されて、あんたのせいでこっちはなんにもできない。」

「...。」

「あの人もあの人で浪費、浮気、暴力...。
もううんざりよ。」

「今に見てなさい。
あの人が帰ってくればあんたもまためちゃくちゃよ。あんたが病院に告げ口したこと、話せば矛先は全部あんたに向くの。」

「母さん...。」

「いい加減にして。
あんたにそう呼ばれる筋合いはないわよ。

告げ口したってどうせここ意外にあんたの身柄を引き取ってくれる場所なんてない。
こんなお荷物でしかないあんたをね。」

こんなことを言われて悲しくない人なんていないだろう。

でも...。

逃げていいんだ。

「言いたいことはそれだけ?」

「...後ろ盾作ったからって、ずいぶん偉くなったものね。
親に対してその口の利き方はなに。」

「...母さんは父さんを怖がっているだけ。」

「黙りなさい!
何様のつもり!!」

「大きな声出さないで。
母さんの苦労はよく分かってる。」

バシッ!!

容赦なく平手打ちが飛んでくる。

「二度とそんな口の利き方しないで。
あんたなんかに私の何が分かるっていうのよ。」

「...。」

「何よ、その顔...。
わたしがなにをしたっていうのよ!!!」

あっという間に、胸ぐらを掴まれ、床へと引きずり下ろされる。

「そうやって、また八つ当たりするの?」

「黙りなさい!!」

「それで母さんの気が済むならいいよ。
そのぐらいなら、怖くない。」

しばらく、そうしてすっかりやつれた母を見つめていた。

「...そうやって偉ぶるのも今のうちよ。あんた一人であの人の相手をすればいいわ。」

母親は、私を放ると、その場を去っていった。