大事な話なので、渚くんとビビには退席してもらった。
ベンチに、私とクリスさんが座る。

風がふわりとなびく、夕暮れ前。
隣に座るクリスさんはとても、格好良い。
心臓がバクバクとし始める。
「俺に願い事って何かな?」
ぱっちりとした目で私を見るクリスさん。
クリスさんからは凄く良い匂いがする。
柑橘系の匂いだろうか。
落ち着く匂い。
「あの…、とても非常識だってわかってるんですけど」
「うん」
「私を、実家まで連れていってもらえませんか?」
「…どういうこと?」
一瞬でクリスさんの表情が曇った。
嫌な顔をされることくらいわかってはいる。
覚悟の上で言うしかないのだ。

いつのまにか手のひらにかいていた汗をドレスでぎゅっと握りしめて拭く。
「蘭から言われてるよね? ここから出ちゃいけないって」
「わかってます」
「それに俺、注意したよね。ここから抜け出すのはやめたほうがいいって」
「わかってます」
私とクリスさんは見つめあった。
「実家の前を通り過ぎるだけでいいんです。そしたら、すぐに屋敷に戻ってくれたらいいんです」
「……」
クリスさんは、ふぅ…とため息をついた。
「カレンちゃんは、わかってないよ」
「罰はちゃんと受けます!」
私は思わず立ち上がった。
「お願いします。クリスさんにしか頼めないんです」
90度近く頭を下げる。
「カレンちゃん、頭を上げて」
「お願いします。クリスさん」
クリスさんは立ち上がると、私の肩をつかんだ。
「お願いだから、俺に頭下げないで。君は、蘭のお嫁さんなんだから」
「でも…」
クリスさんは、ぱっと私から離れた。
そして、黙り込んだ。
「クリスさんは、ご両親はいらっしゃらないんですか?」
「え?」
家族に関しての質問はタブーだとは、わかっていて。
あえて言った。
「両親が心配なんです。両親がどうしているか、自分の目で確認できれば、それでいいんです」
呆然とした表情でクリスさんが私を見ている。
「お願いします!」