な、
ないないないないないないないない!

お金がないっ!!


昼時のコンビニのレジで、私は声もなく大絶叫した。

レジカウンターの上には今しがた私が置いた期間限定のコンビニスイーツ。
前からずっと狙っていたヤツだ。
けれど少しお高めのお値段とカロリーが、私に購入を踏みとどまらせていた。

さっきやっとここ数週間の業務の山場が片付き、ほっと肩を撫でおろしたところで昼休憩に突入。
今日買わずしていつ買うの!、と、デスクの引き出しに入れてある小銭入れ片手に、意気揚々と隣のコンビニに乗り込んだのである。


京都のお土産にもらったお気に入りのがま口財布の中には、百円玉が一枚と十円玉が一枚、一円玉が三枚。
一円玉と百円玉を見間違えたのかと指で裏返してみたけれど、手品みたいにくるっと変わることはなかった。

小銭入れを開いまま完全に動きを停止した私と、レジのお兄さんとの間に、微妙な空気が流れた。

完全停止している体とは逆に、頭の中はバタバタと慌ただしい。

(そうだ。昨日残業の時に後輩の子たちにドリンクの差し入れをしたんだった……)

めったにしない先輩風を吹かせたのが仇《あだ》となった。
あの時にこの中のお金をほどんど使い切ってしまったのに、補充しなかった自分が悪い。ロッカーの中の本物の財布の中には現金もチャージ済みのICカードもちゃんとあるというのに――


すうっと背中に冷や汗が滲む。チラリと視線を斜め後ろに遣ると、いつの間にかレジ待ちの人が増えている。その中には顔だけは知っている他部署の人がいたような気がして、職場の隣という好立地が途端に恨めしくなった。

お行儀よく立っている若い男性店員を前に、最後の足掻きとばかりに上着と制服のポケットに手を突っ込んでみるけれど、ハンカチ以外に入っているものはない。スマホすら引き出しに入れっぱなしで来てしまった。