ぜんぜん足りない。



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こおり君の部屋に入った。

体をカチコチにして身構えてたのに、そこから先、特に何かがあるわけでもなくいつも通りだった。



「わたし、歯磨きしようかな。洗面台借りてもいい?」

「いいよ。おれもする」


鏡の前で、ふたりでシャコシャコ。
映ったほうのこおり君と目が合った。


「………」
「………」


同棲カップルっぽい、って言ったらどんな顔するかな。ポーカーフェイス崩せるかな。

たぶん無理だね。


それにしても、歯磨きしてるだけで絵になるこおり君。
けだるさが一周回って色気になってる。


そして、わたしたちの身長差、に……勝手ながら萌えてしまった。


身長157センチのわたしは低いほうじゃないのに、こおり君の目線はそれよりもだいぶ上にある。



「ほおいくん、」

「なんて?」

「ほおり、くん、ひんしょう……、らんへんち?」

「……。うがいしてから喋りな」


うん、そうしよう。

口をゆすいで、もう一度鏡の中のこおり君と目を合わせた。