ぜんぜん足りない。



「……もしもし?」

律希と話すことより、こおり君との沈黙のほうが今は耐えられなくて、思わず出てしまう。



『俺が使ってたブランケット知らねえ?』



声を交わすのは1年ぶりくらいなのに、“久しぶり”のあいさつすらしない律希。



「ブランケット? 律希が持っていったんじゃないの? ないなら、わたしの使ってもいいよ」

『じゃあ借りるわ。てか、ベッドも借りていい?』


「っ、だめ! ソファで寝て!」

『相変わらずケチだなあ』


「用事ってそれだけ? もう切るからね」

『まだ終わってねぇーよ』


「ええ、なに……」

『お前のこと、まだ好きだって言っただろ。……ちゃんと返事しろよ』



──────ドクン。
また大きな音がした。

気づいたら、通話を切っていて。


……こおり君に、今の聞こえた?

真っ白な頭の中で、真っ先に考えたことがそれ。


ちょうどそのタイミングでエレベーターが開いた。