ぜんぜん足りない。



「で、なに」


空き教室。扉を閉めてふたりきり、になっても、こおり君の学校モードは剥がれなかった。

そっけない。ひどい。

でも今は、そのショックな気持ちも、いったんぜんぶ通り越して。



「今日、こおり君ちに泊まっていい?」

「っ、は?」

「こおり君の部屋に泊まりたい」

「………」


こおり君はあくまで冷静。
すぐに返事はせずに、少しかがんでわたしの目線に合わせてくる。


「ヒドい顔。……なんかあった?」

「………」

「おれのせい? ……ごめん、いじめすぎた、ね」



頷けない。
半分合ってる。半分違う。

たしかに今まで通り無視されたけど、無視されただけじゃ、電話を掛けたりなんてしなかった。

でも、その半分が言えないからぜんぶこおり君のせいにする。



「こおり君、昨日、学校でも話していいって言った」

「……うん」

「なのに、いつもと変わんないじゃん」



シャツを掴む。
引っ張って、自分との距離を詰める。

こおり君は抵抗しなかった。