ぜんぜん足りない。


反応がない。

諦めかけた8コール目で、呼び出し音がぷつりと切れる。



「……なに?」

いつもの声。
学校の中だからか、少し不機嫌そう。



「こおり君、」

「うん」

「……会いたい」

「帰ったらね」


「やだ。今、会いたい」

「……ワガママ」

「ワガママ聞いてよ、お願い……」



語尾が少し震えてしまった。

それに気づいたのか、気づいていないのか、こおり君はしばらく押し黙る。



「……7組横の空き教室」

「っ、」

「そこなら誰も来ない」


低い、だけど少し優しい声がそう言ったのと同時、通話が切れた。