ぜんぜん足りない。


「だ、だめ! こおり君とはできない……っ」


自分で押し倒しておきながら、仰け反る勢いで体を離した。

こおり君はいたって無表情で、「騒がしい女……」とか言いながらゆっくり起きあがる。



「だったら早いとこボタン留めな」

「う、うん」

「……なに」

「え」

「見てないで早く留めろよ」

「ひえっ、命令口調! こわい!」


大げさに怖がってみせたら、じとっとした目つきが返ってきた。

このまま体を離しておくつもりが、こおり君のポーカーフェイスを崩せたのがうれしくて、つい甘えたくなってしまう。



「じゃ、あ、こおり君が留めてよ……」

「は?」

「これ、こおり君がこれ外したんだよ」

「そのくらい自分でやれよ」

「……だめ、なの?」

「………」


少し睨みをきかせながら、しぶしぶといった様子でボタンに触れるこおり君。


「意味わかんないよ、おまえ」

「なにが?」

「おれを押し倒したのって冗談?」

「へ……」

「おれとはできないんでしょ。なのになんで?」


……なんで?

ふと至近距離で視線がぶつかった。