ぜんぜん足りない。



こおり君はしばらく動かなかった。

力なく下がった腕は、わたしを拒否することも引き寄せることもしない。



「……へえ。付き合ってたんだ?」


わたしたちの沈黙を破ったのは律希だった。

いつのまにかわたしたちの側に来てて、かすかに笑った顔を見せる。



「言わなかったのは、俺に気を遣って?」


「……律希、黙っててごめんね。でも、付き合ってるって言っても、わたしが追いかけてるだけっていうか……。こおり君はワガママに付き合ってくれてるだけで……」



だめだ、おかしいな。
パニックになって余計なことまで喋ってしまう。


だって、どう説明していいかわからないから。


おろおろしていると、ふいに。



「ちょっとだけ桃音借りていい? すぐ返すから」


抑揚のない声が落ちてきて、こおり君がわたしの肩を抱いた。


心臓が跳ねたのもつかの間、こおり君の部屋の玄関に押し込まれる。