ぜんぜん足りない。



次に返信がくるまで少し間があった。


【 いま朝礼終わった 】

【 教室の前の廊下にいて 】


それを見たときには、もうちょうど、教室の手前まで来てて。

顔を上げた先、ガラッと教室の後ろの扉が開く音がした。


顔を見せたのはこおり君。

わたしのスクバを持って、わたしを見つめてる。



「ほんとに帰んの?」

「……、うん」

「……リツキくんが心配だから?」

「……そう、だよ」



なんで、そんなこと聞くの?

こおり君の表情はいつもと変わらない。
ぜったいに感情を読ませてくれない。



早くスクバを渡してほしいのに、見下ろす黒い瞳に、がんじがらめにされて動けなくなる。



「おれが帰んないでって言っても帰る?」



がんじがらめの次は、鷲掴み。

心臓をぎゅっと強く握られた感じ、

だって、手が。


こおり君の手が、わたしの手をぎゅってしてくるから。


……行かないでって言ってるみたいに。