ぜんぜん足りない。



お互いに動作停止。

何も知らないミヤちゃんは、わたしたちを交互に見つめる。


わたしがいつもこおり君を追いかけてるのを知ってるけど、本命は律希だって、ミヤちゃんは思ってる。

オロオロ焦っているのを見て申し訳なくなった。



「あ、……も、桃ちんちょっと具合悪いみたいだね⁉ あっ、熱もあるかも! 保健室行こう! 郡くん、またねっ」


状況がわからないなりに気を利かせてくれたらしい。
ミヤちゃんはこおり君にニコっと笑いかけて、わたしの腕をぐいっと引っ張った。


教室とは反対方向に進む。



「 、桃音」


こおり君の呼び止める声がしたけど……無視。

郡くん呼んでるよ?大丈夫?って、ミヤちゃんが何回もわたしの顔をのぞき込んでくる。


こおり君が “学校” で、わたしの “下の名前” を呼んでくれてる。

今までのわたしだったら確実に舞い上がってる。

でもね……。


「いーの、大丈夫……」


今は、顔を合わせたくない。