ぜんぜん足りない。



みんなに背を向ける。

廊下に出ると、ちょうど登校してきたらしいミヤちゃんがいた。



「桃ちん、おはよう! ……って、え?
なんか泣きそうじゃない? 大丈夫⁉」

「ミヤちゃん…」

「うん、どうしたの⁉」

「もう…やだ。帰りたいよぉっ」



事情を知らないミヤちゃんに抱きついて、胸元に顔をうずめた。


「えっ、えっ、桃ちん! どうした、何があったの? とりあえず空き教室行こうか?」

「……帰りたい、」

「帰りたいの? 体調悪いの?」



首を横に振る。

帰ったら律希がいるけど、こおり君と顔を合わせてるよりぜんぜんいい。


冷たいのに、ときどき甘さをくれるから離れられなかった。

バカみたいに一喜一憂して……。


好きだからそれでよかった。

よかったはずなのに、今の出来事で、わたしの中の何かが崩れてしまった。