ぜんぜん足りない。



「桃音、おれと付き合って」



──しばらく、ぽかんとしてた。

間抜けみたいだけど、ほんとに、ぽかんとしてた、としか言えない。

驚きとか言う以前に、思考回路が寸断されている状態。

何も言葉を発せないでいたら、こおり君が距離を詰めてきた。



「返事……して」


今日のこおり君はおかしい。

これは、いつまで続くの?


怖いよ……。なにを信じていいかわからなくて、結局ぜんぶが嘘に思える。


どうしていきなりこんなこと言うの。

バレたら別れるって言ってたのはこおり君なのに、こんな、公衆の面前で……告白、みたいなこと。


こんなことがあるわけないと思ってしまう。

だから、一番現実的な考えにたどり着く。



「わかった。これも“賭け”、なんでしょ」

「……、は」

「わたしが浮かれてるのを見て、みんなと笑うんだよね……っ?」

「桃音、」



掴まれた手首を

パシッと振り払った。