ぜんぜん足りない。


ちょっと考えてから、玄関まで追いかけた。


引き止める術はなし。

なに言っても無視されるってわかってるけど、こおり君が玄関の向こうに消えていくギリギリまで頭を働かせる。



「こおり君待って!」

「なに」


たったひとことに、圧がある。

無表情で、無機質な圧。


こおりくんの無表情はほんとに「無」で、なにを考えてるのかまったく読めないんだ。


冷めてる、けど、冷たい、じゃない。

当然あったかくもない。


そもそも温度を感じられないから、やっぱり「無」。


“まだ帰らないで”って言いたいだけなのに、静かに見つめられたら

そのセリフは喉の奥に引っ込んでいってしまった。