ぜんぜん足りない。


そうだ。きっと夢だったんだ。
律希にキスされたのは、夢だったに違いない。


……なんて、現実はそんなに都合よくいかない。


こおり君の服を抱きしめてるわたし。まぶたが重いのは眠ってたせいだけじゃない。

目の奥が熱くてまつげが濡れてて、涙が伝ってたほっぺたがひりひり……痛い。

そのことに気づいたのか、服を取り返そうと伸びてきたこおり君の手が一時停止する。



「……なにその顔」

顔をのぞき込んでくるからうつむいて逃げた。


「桃音、こっち」
「やっ……」


無理やり顔を上げさせられる。


「……どうしたの」

「………」

「おれが泣かせてる?」

「……違う」

「じゃあなに」

「………」

「………」

「………」

「とりあえず何か答えてくんない」

「………」


だんまりを貫いた。

言いたくない。言ったところで、どうせこおり君は「あっそ」で済ませそうだから怖い。

そんな態度をとられたら余計に傷ついちゃう。