「わたしだって、この家に生まれたんだから少しはわかってるよ。会社の利益がどれだけ重要か。お父さん達の下で働いている従業員を守らなくちゃいけない事もわかってる」
「⋯」
「だけど、わたしだって一人の人間なんだよ⋯?」
従業員と同じ、人間だ。
「わたし一人の犠牲の下で、たくさんの人の雇用が守られる事もわかってる。だけど、だけどっ⋯」
そんなのあんまりだ。
わたしだって、幸せになりたい。
ただミナトと何気ない日常を送りたい。
「ねぇ、本当にわたしと凛也さんの結婚が最善なの?他に出来る事はっ⋯、わたしに出来る事はっ、」
必死になるわたしを冷めた目で見下ろすお父さんは前に、わたしを大切な娘だと言ってくれた。それを嘘だって思いたくはないけれど⋯。
ないけれど⋯⋯。
「さくらに出来る事なんてない。お前はただ、これ以上波風立てずに用意された道を歩いていけばいいんだ。それがさくらにとって一番良い将来なんだから」
その言葉を、疑いたくなるよ。
「まだお前は子どもだから分からないかもしれないが⋯大人になった時、きっと意味がわかる」
「⋯」
「だからもう少し、周りを見て行動してくれ」
「なに⋯、それ⋯」
「もう少し考えろって言っているんだ」
咎めるような、呆れたような、お父さんの態度からはわたしの我儘に付き合うのは面倒だって、いい加減にしてくれって、そんな、懇願のようなものまでもが垣間見れてしまって、わたしが今話している事はそこまで父を失望させてしまう事なのだろうか。
わたしが望んでいる事はそんなにも許されない事なのだろうかと悲しくなった。