夜になり、勉強の息抜きに少し甘いものでも食べようかとキッチンへと向かう途中。

丁度帰ってきたらしいお父さんと廊下で鉢合わせになった。



「⋯お帰りなさい」

「ただいま」

「⋯」

「⋯」


わたし達の間には明確な隔たりがある。

それは双方譲れないものがあるからで、どちらかが諦めない限り、妥協しない限りそれが無くなる事はない。

だけど歩み寄らない事が一番の遠まりだ。



「ちょっといいかな」



横を通り過ぎようとしたお父さんにそう言えば、お父さんは「何だ」と言いながら足を止めた。



「⋯わたしに何か出来ることはないかな?」



勇気を出して発したその言葉にお父さんが眉根を寄せる。



「出来ること?」

「⋯うん。⋯わたしはやっぱり自分の意思でない結婚はしたくない。好きな人と一緒になりたい」

「まだ別れてなかったのか」

「っ別れるわけない!わたしはミナトの事が好きなんだから!ミナトもわたしの事を好きでいてくれてるっ⋯それなのに別れる理由があるの?」

「全てを犠牲に出来るのか?さくらに」

「だから!今それを聞いてるんじゃない!」



声を荒らげていくわたしと、至って冷静なお父さん。まるでわたし一人が必死みたいで泣きそうになる。どれだけ叫んでもその声はお父さんには全く聞こえていないんじゃないかって、怖くなる。