「とにかく、婚約をなかった事になんて簡単に出来るはずがない事はわかっているだろう?」

「それはっ、」

「悪いが諦めるしかない。君の為にも彼の為にもな」

「待ってください!」



話は終わりだと言わんばかりに席を立つ凛也さんを引き止めようとするが「これ以上話す事はない。悪いことは言わないから早く彼とは別れろ」とお父さんと同じことを言う凛也さんにもうどうしたらいいのかわからなかった。



皆、皆、同じことを言う。

まるでわたし達が間違っているかの様に。

まるでわたし達が不幸へと向かっていくのを善意から引き止めようとする様に。



“悪いことは言わないから”“早く別れろ”と。



「⋯好きな人と一緒にいたいと思う事はいけない事ですか⋯」



個室を出ようと扉に手を掛けた凛也さんに震える声で問う。



「わたしはただ⋯、好きなだけです」

「親に反抗したくて好きだと勘違いしているんではなくて?」

「違います。愛しているんです、彼を」



結婚が嫌だからミナトを理由にして⋯とかではなく純粋にミナトに惹かれて好きになっただけ。その気持ちには少しの嘘はない。


即答したわたしを凛也さんが微かに笑う。



「俺には人を好きだと思う感情を理解する事は難しいが、見苦しいぞ、お前」

「⋯なんだっていいです」

「⋯⋯⋯そうか」



見苦しいと言った凛也さんに苛立ちなんてしない。今のわたしは本当に見苦しいだろうから。

縋って、誰にも味方になってもらえなくて。

唯一の支えはミナトだけで。

だけどそれがどれ程見苦しくても構わなかった。ミナトと共に過ごせる未来の為なら見苦しくったってなんだって良かったんだ。