「二股宣言か?」

「ふざけないで下さい」

「ふざけているのはお前の方だろう」



ハッと鼻で笑っていた凛也さんの声が途端に低くなり冷たさを増す。

彼は普段も威圧的な雰囲気を醸し出しているけれど、こういう時は氷点下の中にいるみたいな感覚になる。

喉さえも凍りついて声が詰まる。



「自分が何を言っているのかわかっているのか?」

「わかってます、」

「いや、お前は何もわかっていない」

「っ」

「念の為聞くが、付き合っていると言ったな?」

「はい」

「知っているのは」

「両親と、⋯凛也さんだけです」

「君の彼とやらは婚約の事は?」

「話しました」



わたしがそう告げると、目の前の凛也さんは深く長いため息を吐いてサラサラとした黒髪を掻き上げた。



「とんだ女だな、お前」

「前にも話した通り、わたしはこの婚約を受け入れるつもりはありません」

「餓鬼が」



吐き捨てる様に零れた言葉は、偽りのない凛也さんの本音だろう。

彼からしてみたらわたしは子どもでしかなく、今している行動だって到底許容出来るものでなければ面倒事以外の何物でもないんだろう。