すぐにやってきてしまった土曜日。

家の前まで迎えにきてくれ凛也さんの車に乗り込む。



「今日はどちらに?」

「特に決めてはないがそうだな、新しくオープンしたホテルのビュッフェでもどうだ?」

「ぜひ」


わたしが頷いたのを合図に、運転手の方がゆっくりと車を発進させる。

高級車ゆえに静かな車内は、何度経験しても気まづさを拭えない。

凛也さんはいつもの様に目を閉じてしまっているし、特に何か話したい事があるわけではないからわたしも窓の外へと目を向けた。


清々しい晴天と太陽はなんだか眩しすぎる。



「日焼け止め塗ってくればよかったな⋯」

「案外そういう事にも気を使っているのか」



無意識のうちに零した一人言。

それを何故か、凛也さんは拾ってくれたらしい。



「すみません⋯」

「何故謝る?」

「いや⋯、えっと、うるさかったかな⋯と」

「⋯身だしなみなは気を使っているのか?」

「え?」



凛也さんの方から会話を広げてくる事なんて今まであったかな?と思うほど珍しい事で、思わず端正なその顔を凝視してしまう。



「何かおかしいか?」

「っ!いえ、そういうわけでは⋯」

「⋯こういう家に生まれてしまったからには、社交界に身を置く事もあるだろう」



切れ長の目をわたしに向けたまま淡々と話を続ける凛也さんはどこかお父さんと重なるところがある。

それは決して遺伝子的な顔や声が似ているという事ではなく、あまり表情が変わらないところ。声色でさえ一定であるところがお父さんと似ている。



「その時にまず相手が見るのはその人の身だしなみだ。身なりが不格好だとそれだけで下に見られる事もある」

「⋯そう、なんですか?」

「そうだろう?例えば⋯ハゲていて太っている男がネクタイはユルユルで、スーツのサイズが合っていないのはみすぼらしいだろう。たが例えハゲで太っていたとしても、身なりがそれなりに整っていればいくらかはマシになる」

「そう、かもしれないですね」