「お父さん、わたし、この前話した時と気持ち変わってないよ」
「⋯」
「わたしには今、凛也さんじゃない好きな人がいて、わたしはその人と一緒にいたい」
「⋯」
「勝手に会う約束されるのは嫌だし、今すぐにどうこう出来る問題じゃない事もわかってる。だけどわたしはっ⋯⋯、」
「──────さくら」
低く、重いお父さんの声が部屋に響く。
その声はどうしたって、わたしとお父さんの間には大きな隔たりがある事を突きつけてきた。
「今すぐとかそういう事ではないんだよ。酷な事を言っているのは承知の上で、お前には華山の娘としてやらなければならない事があるだろう」
「っそんなの、」
「その彼が大切なら尚更、早く別れた方がいい」
「っ」
「それが皆の為だ。もちろん、さくらにとっても」
「なんでそんな事いうの?わたしはミナトと一緒にいたいって⋯、将来を自分で決めたいってただそれだけなのにっ!」
「この家に生まれたからには“それだけ”ではない事くらい、わかっているだろう?」
真っ直ぐにわたしを射抜く瞳は、父親のそれであって、多くの従業員の生活を守る経営者の目でもあって。
どうしていけないの、わかってくれないのって叫びそうになるのをギリギリの所で堪えた。
お互い、一番が違う。
わたしはミナトが一番大切で、お父さんはきっと会社が大切で。
だけどわたしも社員の人たちを路頭に迷わせたくはないし、お父さんだってきっとわたしの気持ちを一ミリも汲み取ろうとしていないわけではないと思う。
だけどどうしたって一番大切なものは譲れないから⋯⋯。
わたし達は交差する事しか出来ない。