「違う、の⋯。ミナト⋯」
「さくら?」
今繋がれている手は、あの海の時とは違う。
冷たくもないし、震えてもいない。
ただただ温かくて。
「ごめん、あの、なんて言うかいきなり繋いだし、こうやって手を繋いで歩くっていうのが擽ったくて⋯」
「⋯うん」
「ドキドキしただけだから⋯嫌ってわけじゃないから⋯、むしろ嬉しいの。だから⋯、」
「離さないで──────」
きっと今のわたしの顔は真っ赤だろう。
繋がれた手もじんわりと汗ばんでしまっているし、顔中───いや、全身が熱い。
わたしの言葉に僅かに目を大きくさせたミナトは一度、更にしっかりとわたしの手を握り直した。
「さくらって、本当に凄いよね」
「凄いって、どういう事⋯!?」
「簡単に俺の心臓をぶっ壊すって事だよ」
「ぶっ!?⋯ええ、」
いまいちミナトの言っている意味がわからなくて首を傾げるわたしにミナトは優しく微笑んだ後、「嫌じゃないならこのままでいい?」ともう返事なんてわかりきっているはずに聞いてくる。
だけど「さっき言ったからもう言わない」なんて事、わたしは言わない。
わかりきっている事を聞いてくるって事はミナトはそのわかりきっている言葉が欲しいって事で。
その言葉が欲しいって事は、その言葉はミナトにとって嬉しいものだったって事で。
それならわたしは何度だって伝える。
わたしだって何度だって伝えたいから。
「離さないでって言ったよ?」
「うん、そうだった」
「⋯⋯このままがいい」
「うん。ありがとう」
駅の中でこんな会話をしているわたし達はもしかしたら傍迷惑なバカップルに見えてしまっているかもしれない。
でもそれでもいいと思ったんだ。
だってこんなにも好きなんだから。