別荘の屋敷は地下のワイン貯蔵庫や使用人の控室などを含めると５０部屋近くあった。

アイリーンたちは可能な限り一部屋ずつ見て回りヴァルテリは適宜この部屋には何があるのかなどをアイリーンたちに説明していった。

中には食器だけを保管している部屋などもあり、その部屋にサクラは興味津々だった。

「これ、ほしい！

あっ…」

サクラが手に取ったのは、花柄があしらわれたティーカップのセットだった。

しかし、陶器でできているため少し重かったので３歳のサクラがずっと持っているのは不可能だった。

手に持っていたすみれの花が書かれていたティーカップはサクラの手を離れ、床に落ちた。

そしてすみれの花が書かれたティーカップは無残にも砕け散った。

「ごめんなさい…」

セットの中ひとつでもかけてはならないことを知っていたのか、ただ落としたことに対して謝っているのかわからなかったが、涙を流しながらサクラは謝った。

アイリーンは持っていたベルを鳴らし、部屋の中に侍女を呼んだ。

「これ、割れてしまってこのままだと危ないから片付けてくれる？」

そう使用人に頼むと、侍女はどこらかともなくほうきとちりとりを持ってきて大きな破片を取り去った。

そして仕上げに少しだけ粘着性のあるシートを破片が散らばった床に押し付け、細かな破片を取り去った。

「失礼します。」

侍女はそのままアイリーンたちに一礼をし、割れた破片をもって退室した。