「あいつら。見た目から生活習慣病のオンパレードみたいな体をしてるもの。病気を言い当てられるのが怖いのね」

「そうかもしれない」

「ああいう体のひとは、だいたい自己中で変なやつって決まってるのよ」

 亜里の体験に基づく偏見発言を、ルークはスルーした。

 アリスもそれ以上言う気はない。

(勝手にすればいいわ。あの年代は他人の言うことを聞かないもの)

 使用済みの医療用手袋を空に掲げると、天井が歪んで穴が開いた。アリスが手を放すと、穴に手袋が吸い込まれていく。

 召喚した診療材料は、返還することもできる。

 神様は医療廃棄物をこの世界に残さぬよう、ちゃんと考えたらしい。

「さあ、ひと休みしたら次の仕事にとりかかるわよ」

「承知した」

 ルークとアリスは外に出て井戸の水で手をしっかり洗い、ふうと息をついた。

 目の前には天に届きそうな高い山々が連なっている。頂上にはうっすら雪が積もり、白い帽子を被っているようだ。

 壮大な景色に励まされ、アリスは大きく深呼吸した。

 亜里が働いていた空気が澱んでいる狭い病棟よりは、よほどましだと思えた。