松菱くんのご執心



「本当に嫌だったら……」


松菱くんが呟く。


「え?」


「嫌だったら、逃げればいい。

……でも、もしみかさが逃げなかった時は、

俺と同じ気持ちだと思っていいか」


まっすぐな視線がぶつかる。憂いを帯びた瞳だった。


「俺のそばに縛りつけたいくらい大好きなんだ………いいか、最後の忠告だ。逃げるなら今のうちだぞ」


 ニヤリと松菱くんは笑う。


壁につかれた手は、

顎にそえられ、わたしはクイッと上に向かされる。



逃げるって、そんなことするわけないじゃん。それをわかってて、松菱くんは言っている気がする。


───私だって、好きなんだもん。


 ここまでお膳立てされて逃げる理由などどこにもなかった。


距離がゼロになる寸前、目を瞑る。



───あれ?と首を傾げる。



 何も来ないぞ、


と思って恐る恐る目を開けると、悪い顔をしている松菱くんと目が合った。


 ええっなに、フェイント? 


頭の中がぐるぐると混乱の渦に巻き込まれる。



松菱くんはふっと息を吐くように微笑んだ。


「無防備なみかさ、見ちゃった」


 そう言って緩やかに弧をかいた唇が、そっとわたしの唇に触れた。


「……今の狡いよ、松菱くん」


わたしがぽつりと言うと、松菱くんは肩をすくめる。