わたしの姿を上から下まで観察し、
目を丸くさせた松菱くんは、無言でこちら側に入ってきた。
そして扉を閉める。
ガチャッと鍵の掛かった音がした。
「あの、松菱くん?」
大丈夫? と声をかけた。
松菱くんはまだ、黙ったままじりじりと距離を詰め、その分わたしは後ずさりする。
背中に壁のひんやりとした冷たさを感じる。
もうこれ以上は下がれない。
蛇に睨まれた蛙の気持ちが、今ならわかる気がする。
「みかさ」
松菱くんの声は低かった。
「は、はい」
名前を呼ばれ、思わず敬語になる。
「なんでしょう」
松菱くんの両手が私の顔の横を横切り、壁につかれる。
その両腕でわたしが逃げる経路が奪われた。
「その格好でここから出られると思ったのか。
学校が許しても、俺は許さないぞ。
そんな短いスカートで人前に出てみろ、たちまち男はみかさに襲いかかってくるぞ」
「そんな大袈裟な。
過大評価してもらって嬉しいんだけど、わたしにそんな魅力は無いと思うな」
「現に俺は、今襲いかかろうとしているんだが、気づいていないのか」
そんな堂々とされても困るんですけど、
と今までのわたしなら間違いなくそう返事していただろう。
けれど、今日は空気が違った。
松菱くんの言葉には真剣味があって軽く受け流すことが出来なかった。



