「いや、でも」


真結ちゃんは困ったように言い淀む。


「さすがに悪いよ」


「いいからいいから、バイトに遅れちゃまずいでしょ。
わたしのありがた〜い、お言葉に甘えなって」


「ほんとにいいの?」


「いいって」わたしは微笑む。


「なにから何まで、ありがとう。今度なんかお礼するね! パフェとかパフェとか」



 わたしは「楽しみにしてるね」と教室から出て行く真結ちゃんを見送った。



困った時は助け合いだ。



バイト、ちゃんと間に合うといいなと思いながら残っていたあと片付けを済ます。



メジャーを真結ちゃんが忘れて帰っていたので、取り敢えず鞄にしまい。


ふうと息を吐いた。放課後の校舎はやけに静かで、心がざわめく。



鞄を肩にかけ、廊下へ出ると、



 向かい側から、だるそうな足取りで、のらりくらりとこっちに向かう人がいた。



金髪がトレードマーク、そして綺麗なのは髪だけでなく顔立ちもだった。

スリッパの色から二年あることは確かで、見た事のない顔だった。



すれ違う時に手の傷が見えて、はっと息を飲む。

自傷行為?


………いや、違う。不良か。



もしかして、と思った。隣の席の男の子かもしれないと直感的に感じた。



「どうしたの、その手」気づけば、わたしは声をかけていた。