教室の入口がざわざわとしだす。


ドア付近にクラスの女の子達が集まっていた。有名人でも、現れたかのような盛況っぷりだ。



「誰かに用事ー?」と声がする。


「みかさいるかな、呼んでほしいんどけど」



よく知った声だ。そちらに顔を向ければ、



「あ、みかさ!」と爽が手を振った。




女の子達を掻き分け、清々しいほどの笑みを振りまきながら近づいてくる。




「どうかした?」


わたしが聞くと、爽は頭をかき、聡明な笑みを浮かべる。


周りの女の子達の黄色い声も視線もあつまっていた。



「現代文の教科書忘れてさ、今持ってるかな」


「あるよ、ちょっと待ってね」


わたしは鞄をがさごそと探す。


みんなの視線は爽に向いているとしても、何となく恥ずかしい気持ちになる。


爽にしても、松菱くんにしても毎日こんなに注目されていたら、全然落ち着かないだろうな。

「あ、あったあった。はい」



「ありがとう」爽は教科書を優しく受け取り、春風のような笑みを放つ。



そして、視線をスライドさせ、わたしの隣を見た。


露骨にしわを寄せる。



「なんだよ、そんなに見つめて。……俺にも何か用かよ。爽くん」


 よくもまあ、と思う。
よくこの短期間でこれほどまでに険悪になれるんだと呆れを通り越して感心した。