松菱くんのご執心

「それで、ですね。お願いしたいことがあるんです」


戸黒さんはわたしに向き直る。


「聞いてもらえますか? えっと、白羽根さん」


「なんでしょう」


「今、秀一は風邪なんですけど、それ以前に保護観察中なんです。
なので、彼の周りの人間関係は業務上、秀一から聞いていました。あなたの事も。
それはもう、よく話してくれまして、初めて会った時のこととか、席が隣で……」



そんなことまで戸黒さんに話していたのか。なんだか他の人からその話を聞くと恥ずかしいなと顔を伏せた。



「戸黒さん、喋りすぎです」


「ああ、失礼」


悪びれる様子もなく戸黒さんは言う。


 みさかに余計なこと吹き込まないでください、と松菱くんが拗ねたように言う。



「これからも、秀一のこと気にかけてやってくれませんか。根は悪いやつじゃないんです」


それは切実なお願いにも思えた。


「それはもう、はい」


首を縦に振って肯定した。