────その時だった。
父親が帰宅し、鍵を閉める直前に、何者かが家に押し入ってきた。
そいつは父親をナイフで殺し、
リビングで夕食の支度をしていた母を引きづり、何度も何度も刺した。
それを俺はドアの隙間から見ていた。
母から粘着質の赤い液体が湧き出て、床がぬらぬらと輝くのをじっと見ていた。恐怖で声も出なかった。
男は、俺に気づくことなく玄関を飛び出して行った。
ああ、死んじゃった。
俺の意識が無くなるまで殴っていた母もあっさり死んだんだ、って。
やっと地獄から開放される、やったあって思った。
でも、それは一時の感情に過ぎなくて、五歳の俺はやっぱり、母が好きで………暴力を受けていても傍にいて欲しい存在だった。



