抱き締め終わってから、お母さんはまた話し始めた。
「でも、やり方が不器用だったわよね。もう少し上手くやりたかったけど、無理だったわ。だってあなたはあの人によく似ているから加減が出来なかったのよ。突き放したくて突き放したくて仕方なかった」
お母さんは私を見て、諦めたように軽く微笑んだ。
そして、穏やかな顔で如月くんに微笑んだ。
「……ねえ紫苑の花言葉知ってる?」
「知るわけないだろ…」
「“君を忘れない”だそうよ。この名前はね、あの人が付けたの。きっと自分の余命が僅かなこと、知ってたのね。だから君、つまりは私とあなたのことを忘れないって名前にしたのよ。まあ、あの人の遺品整理で出てきた日記帳を見なかったらこんなこと知らなかったわ」
「…っ、父さん………っ、ひっ、っ」
如月くんは限界がきたみたいについに声をあげて泣き始めた。



