「でもなんで聖がそんなこと知ってるの?」

誰とも群れないし、ウサギの失踪だって全然興味なさげな顔をしてたのに。


「あいにく、良いのは鼻だけじゃないんだ」

そう言って、聖は自分の耳を指さした。


「だから色々と聞こえてくる。興味がないことも知らなくていいことも」

彼の黒髪がふわりと風にさらわれた。


その瞳はいつもどこか遠くを見ているようで、昴さんや晶くんにはない空気感がある。

私はまだ聖のことをなにも知らない。

知っているのは名前と性別と、まだ見たことがない狼男だってことぐらい。


「少し外の空気が吸いたかったのかもね」

私は歩く足を速くして、聖の隣に並んだ。


「え?」

「ウサ子とウサ吉。小さな小屋じゃ窮屈だもん。たまには自由に散歩したかったんじゃないかなって」

聖も窮屈に感じていることがきっとある。

だからもし息苦しいのなら、ウサギたちのように逃げてもいいんじゃないかって。

たまには遠回りして散歩したりするのもいいんじゃないかって、勝手にそう思っただけ。


「そうだな」

聖のわずかに口角を上げた。

……はじめて笑った顔を見た。

心がざわついて、キュンッと胸が高鳴ったのは、気のせいじゃない。