「茉莉。学校の勉強はどうだ?」

そのあとリビングに下りるとお父さんが新聞を読んでいた。

テーブルには目玉焼きとウインナーとトースト。これもいつもの朝の光景。


「う、うん。苦手な科目もあるけど、なんとかやってるよ」

お父さんは夜遅くに帰ってくるし休日出勤も珍しくないから、顔を合わせられる朝の時間は大切にしている。

大切にしてるんだけど……。

「あ、そういえば隣の一条さんの息子は三人とも茉莉と同じ学校なんだろ?新しい土地だと不便なことも多いから色々と教えてあげなさい」

「う、うん」

「隣同士なんだしなにも気を遣うことはないんだから、今度うちに呼んでご飯でも一緒に食べようと伝えておいてくれ」


いや、多分だけど……。伝えなくても確実に三人の内ひとりには伝わっている。
  
だって……だってさ、晶くん絶対にお父さんの横に座ってるんだもん……!

肉眼では見えないけれど、椅子が不自然に座れるぐらい下がってるし、リビングに入るまでは私の後ろを普通の顔して付いてきてた。

そんなことを考えてる間にもお父さんのウインナーが……。


「ん?どうした?」

私の目が不自然に動いたから、お父さんが首を傾げている。


「う、ううん!べつに」

ウインナーが一瞬だけ宙に浮いて、まるでマジックのようにパクッと消えた。


確実に晶くん食べたよね?

本当に夢でも見てる気分だよ。姿が見えないってある意味無敵かもしれない。